慰安婦と兵隊」河上政治さん(92)
陸軍の衛生兵として、旧満州の慰安所で薬を配って歩いた経験を基にした詩
東京新聞「筆洗」で紹介され、評判となった。
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黒竜江に近い駐屯地に
遅い春が来たころ
毛虱(けじらみ)駆除の指導で慰安所に出向いた
オンドルにアンペラを敷いた部屋は
独房のように飾り気が無く
洗浄の洗面器とバニシングクリームが
辛(つら)い営みを語っていた
いのちを産む聖なるからだに
ひとときの安らぎを求めた天皇の兵隊は
それから間もなく貨物船に詰め込まれ
家畜のように運ばれ
フィリッピンで飢えて死んだ
水銀軟膏(なんこう)を手渡して去るぼくの背に
娘の唄(うた)う歌が追いかけてきた
わたしのこころは べんじょのぞうり
きたないあしで ふんでゆく
おまえもおなじ おりぐらし
いきてかえれる あてもなく
どんなきもちで かようのか
おまえのこころは いたくはないか
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「筆洗」は 以下のように締めくくる。
性の営みという最も私的な領域まで管理、利用されるのが戦争だ。
「慰安婦制度は必要だった」と明快に言い切る政治家には、兵士を派遣する立場の視点しかない。
自らが一兵士として列に並び、妻や娘が慰安婦になる姿など想像できないのだろう
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